滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
「あ、あの…」
ーーもしかして…、
心配してくれてた?
「遅刻する時は必ず会社に連絡すること。それぐらい社会人として当然だろ、バカ」
まさかこんなこと言われるなんて思っても見なかったので、
今だにこの状況がどうなってるのか頭で理解出来ない私。
ただわかるのは、
彼の腕の中に閉じ込められていることと、
顔が熱いぐらい赤くなっていることだけだ。
「部長、あの…、プレゼンは…」
「社長の都合で一時間遅れることになった」
「へ?」
「開始は十一時からだよ」
それを聞いた途端、自分の中で張り詰めていた何かがプツンと切れて、
要約肩の力が抜けた感じがした。
「よかった〜」
ホッと安心する私に、コラと彼が一言。
「遅刻した分際で何がよかっただよ」
「…すみません」
「ったく」
神妙な面持ちで謝る私を、
彼は笑いながら、やれやれ顔で見つめ返してきた。
この光景をとある人間に見られているとは知らずに。