滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
「ずっと気になってたんだけど、貴方っていうのやめない?仕事の時は百歩譲って部長でいいけど、二人んときはいっつも貴方、貴方って」
呆れるように愚痴る彼に、ついごめんと謝る私。
たしかに出会ってからずっと彼の事をそう呼んできた。
だが、今更苗字だの名前だので呼ぶのが時間が経つにつれどんどん恥ずかしくなってきて、今に至るのだ。
「だって、なんて呼べばいいか…」
「蒼でいいよ」
私の肩を掴んで自分の方に向けた彼。
しかしいきなり名前呼べと言われて、
ペラペラと簡単に口に出せるほど度胸がない。
「じゃ、これからはそう呼ぶ」
「今呼んで」
「えっ!?……う」
「ぁあ?全っ然聞こえない。奈緒子さん、何こんな事で恥ずかしがってんの?旅行先で見ず知らずの俺とセックスした事実の方がよっぽど恥ずかしい…」
「ーー蒼、蒼!!これで満足っ!?」
ムキになった私は顔を真っ赤にしながら言い放った。