滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬

「さっきタクシー呼んで置いたからもうじきくると思うよ」

「あっ…うん、ありがと」



ーー私、何でガッカリしてるんだ?

明日も仕事だし、
蒼君はそれも踏まえて呼んでくれたんじゃない!


でも正直…。




このままなりゆきで、蒼の自宅に泊まることになっても構わないと思っていた。



きっと蒼もそれを望んでくれているから、こうやって連れてきてくれたのかなと心の片隅で勝手に感じていた。


でも蒼は律儀にタクシーを呼んでくれた。



それは私をこの場に泊める気はないという、
あからさまなサインなのかもしれない。




「この服、ちゃんと洗って返すね」

「いや、いいよ。それに破いちゃった服も弁償するから」




蒼は窓のカーテンを閉めると、そのまま私を避けるように部屋を出ようとする。



その間、背を向けたまま一度も目を合わせてくれないままで。




「それは奈緒子さんにあげる。いらないなら捨てちゃって」




捨て台詞のように言った蒼は一人、部屋を出て行った。


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