滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
真っ青に透き通るぐらい澄み切った空。
会社の屋上からは周りのオフィスビルが一望出来て、運がいいと場所によっては富士山が見える。
「あの、本当にすみませんでした。この前の喧嘩って…私のせいですよね」
互いに寒さを凌ぐコートを着たまま柵に近寄る。
「…」
「夏目さんをつきまとっていたのは本当に悪いことをしたと思ってます。いくら俊介さんの頼みとはいえ、こんなことを引き受けてしまうなんて」
周りの同僚達とは違う呼び名がちょっと気になったが、
俊介の彼女ならおかしい事はない。
私を振って俊介は彼女を選んだ。
そこに如何なる理由があったとしても、
私は彼女を追求するつもりなど甚だない。
「…貴方も被害者なんだね」
「え?」
「ううん、何もない」
きっと彼女は俊介の事が好きで堪らないのだろう。
出なければこんな犯罪めいた頼み事引き受けようと思わない。
でもそれはきっと俊介のいいように使われている、ただのコマに過ぎないような気がする。
もちろん彼女はそれに気づいていないだろうが。