滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
「…俺が一方的に殴っただけだし」
「トラブルでもあったのか」
「別に。アンタには関係ねーよ」
社長の話に蒼は相変わらずぶっきらぼうに返す。
しかし社長は顔色一つ崩さないままだ。
「たかがお前の感情一つで変な問題を起こしてみろ、それが外部に漏れて事が大きくなったらどうするんだ」
蒼は立ったまま不機嫌そうに俯き、社長の話に耳を傾ける。
「…まぁいい。新作ケーキもそれなりに結果も出た。お遊びはもう終わりだ」
「…」
社長の言葉を黙って聞く蒼にはそれなりに心の準備が出来ていた。
もちろんここに呼ばれた理由も全て含めて。
「ちょうど年明けすぐに新しい人材を開発部に着任させることになっている。いいタイミングだったな」
そう話した後、机の上にあった内線電話が鳴り社長はそのまま受話器を取って、わかった。と呟き電話を切った。
「お前もそれなりに楽しめたのだろう?よかったじゃないか」
チェアから立ち上がりコツコツと足音を立てながら、蒼に近寄る社長。
口をへの字にして実の父親を睨む息子と、
冷たい目で実の息子を見下ろす父親。