滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬

そこには温かい眼差しや思いなど微塵も感じられないぐらい冷え切っていた。




「これで美味い飯でも食べてアメリカに帰りなさい」



そう言って、社長は背広から茶封筒を取り出しそのままギュッと蒼の手に握らせて渡した。



そして社長は蒼を部屋に一人残して出て行く。




「…ふざけんな」




小さく呟きながら怒りで手を震わせる蒼。



「ふざけんじゃねぇよ!!」





そして手渡された茶封筒を思い切り振り上げて、勢いよく床に叩きつけた。



その反動で茶封筒から大量の万札が床一面に散らばり、
蒼は歯を食いしばりながら悔しそうに床を睨む。






「俺はこんな汚ねー金が欲しくて、ここに来たんじゃねぇ。俺が欲しいのは…っ、ただ一つだけなのに…っ!」






誰かの事を思って泣くのは、
母親が最後だと思っていた蒼にとって、



溢れ出す涙は気持ちの上で特別な意味を持つ感情だった。

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