滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
確信がついた気持ち
父親が運ばれたのは、
町で唯一の個人経営する少し小さな病院だった。
知らせを聞いてから数十分後、
救急外来の入り口から入るとすぐに母親が仕事着のままで立っていた。
「お父さんは!?」
「今先生に診察してもらってるの」
先ほどの電話口から聞こえてきた母親の声と違い、だいぶ落ち着きを取り戻したようだ。
「朝から頭が痛いって言ってたじゃない?普段通り薬は飲んだんだけど、突然倒れちゃって…!」
頭を抱えながら深いため息をつく母親。
顔色は青ざめて正に生きている心地がしないといった状況だ。
「大丈夫だよ、何も心配ないよ」
私は母親の背中を優しくさすってあげながら慰めた。
今の私にはこれぐらいしか出来ることがないからと思ったからだ。
そんな親子を見つめる蒼も心配そうな表情を浮かべたままだ。
その時、診察室から医者が出てきて、
母親は慌てて先生に駆け寄った。
「先生!お父さんはどうでしょうか!?」
「意識はあるので命に別条はないけど、県内の総合病院で詳しく検査した方がいいね。脳梗塞は放っておくと危ない病気だから」