滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
部屋の掛け時計が夜中の一時を指す頃、
こめかみに感じる唇の柔らかい感触に私はふと目を開けた。
「起きちゃった」
すぐ側にいた蒼が私を眺めながら目を細めて笑っている。
「ずっと起きてたの…?」
「まぁね」
そう言って私は蒼の胸にギュッと抱きついた。
蒼も腕枕をしたまま優しく抱きしめてくれる。
ーーあったかいな…。
すごい安心する。
素肌で抱き合うと相手の温もりや匂いがして、とても心地がいい。
またこのまま眠ってしまいそうだ。
「…奈緒子さん、俺さ」
「ん…?」
「今日アメリカに帰るよ」
サラリと出た蒼の言葉に一瞬で目が冴えた。
「アメリカ…」
一気に不安が過ぎった私が見上げると、蒼は固い表情をしたまま小さく頷いた。
さっきの温かい眼差しではなく決意を秘めた眼差しで。
「やり残した事あるしさ、どうしても帰らないと」
「やり残した事?」
「うん」
多くを語ろうとしない蒼に、
私の心境は複雑になった。
すぐ戻ってきてくれるのかな?
それとも、もう帰ってこない?