滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
元々三ヶ月だけと決めていた蒼の事だ、
始めから東京に長居をするつもりなどなかったのかもしれない。
「…寂しい?」
私の頭を撫でながら呟く蒼に、胸がギュッと強く締め付けられる。
ここで自分の気持ちを伝えたら、
帰国する事をやめてくれるだろうか。
しかし私の我儘で蒼を振り回したくない。
「寂しい…けど、蒼君が決めたのなら…」
蒼から目線を逸らし厚い胸板に顔を埋めたまま呟くと、
嘘つき。と私の顎を指で掴んでそのまま持ち上げた。
「ホントは行って欲しくないでしょ?顔にそう書いてある」
「うっ…」
「でも我儘言って俺を困らせたくない。か…、なるほどね」
返す言葉すら待たないまま、
蒼はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべたままスラスラと私の心中を読み取る。
悔しいけど私と口で話すより、心と会話してくれた方がどれだけラクなことか…。
「でも奈緒子さんが深く考える必要なし!」
その時、突然ニッと笑って明るい表情を見せた蒼。
「へ?」
「俺、決めたわ!」
さっきまでの堅い表情は何処へやら。