滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
「おかえりー」
その日の夜、仕事から帰宅した私をいつも通りに蒼が迎えてくれた。
「ね!ね!奈緒子さん見てよ〜」
私が帰るやいなや、リビングにあった小さな和菓子を手に取って私に見せつけてきた。
「今日さ、店の人にちょっと手伝ってもらって作ったんだよ!どうよ!?」
それは華の形をしている並和菓子と呼ばるもので、
日常の茶うけ菓子として親しまれているものだ。
「…」
「でも奈緒子さんのお父さんにはまだまだだ、よ…。ん?奈緒子さんどした」
一言も喋らず、ただ呆然と蒼が作った和菓子を見ている私の様子がおかしいと感じた蒼。
私の顔を覗き込んで心配そうに顔色を伺う。
「…あの、ね」
俯きながら言葉を慎重に選ぶ私。
正直、こんなことをいきなり言われて蒼が戸惑うのは目に見えてる。
だけどもう一人の問題じゃないし、
一人でどうこう出来るような状況ではなかったのだ。
「あの…さ、出来てた、みたい…なんだ」
蒼の顔を見て話す度胸がなくて、
私は俯いたまま話を続ける。