滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
「今日、急に具合が悪くなって、もしかしてって思ったんだけど、でもどうしても気になったから帰り検査薬買って試してみたの。そうしたら陽性で…」
私は鞄の中からその検査薬を取り出し、
そのまま蒼に見せた。
「…」
判定窓にしっかりと赤紫色の線が入った検査薬を蒼は黙って眺めている。
数分間、互いに無言のまま気まずい空気が流れた。
自分も正直まだ実感が湧かなくて、
たまたまだったんじゃないかと結果に疑う反面、
すでに体内には小さな命が宿っているんだと女としての喜びを感じていた。
「…蒼?」
何も話してくれない蒼を恐る恐る見上げると、
蒼は大きく目を見開き驚いていたまま、何故が大粒の涙を零していた。
「ちょ、あ、え…!?」
こっちまで驚いて、慌ててティッシュを手に取り涙を拭いてあげる。
ーー泣くほど嫌なのかな…。
たしかにそうだよね、まだ二十歳だもんね…。
もちろん出来たのは自分にも原因があるわけで、
蒼を責める気など全くない。
その若さで父親になるのはやはり荷が重いというか、何というか…。