滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
「…蒼君と言ったね。君は仕事をどうするつもりなのか。今のバイトで家族を養う程の給料を貰えるのかね」
「まだ見習いの見習いなので見合った給料しか貰えていません。でも他に掛け持ちをして、いくらでも働く覚悟は出来てます。貯金だってあるし、奈緒子さんが働きに出るようなことは絶対にさせません」
父親のストレートな質問に蒼も真っ直ぐに返す。
「俺、真剣です」
外ではあれだけ緊張していたのに、
今は目線を逸らさずに両親と真っ向勝負している。
その姿は二十歳とは思えないぐらいしっかりしていて、
出会った時に比べてはるかに大人になったような気がした。
「こんなこと言うのおこがましいですけど、将来的にはこの夏目屋を継ぎたいんです。だから今必死に勉強しています。まともに菓子を作れるまで何十年とかかるのは承知の上で。俺は夏目屋の和菓子が世界一だと今でも思ってます!その味をこれからもたくさんの人に味わって、幸せになってもらいたいんです!!」
熱のこもった思いに両親がならず、私まで心打たれてしまった。
それだけ夏目屋を愛してくれているのだと思えたからだ。