滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
「そうか。よくわかった」
父親はそう言っておもむろに立ち上がった。
そして蒼の目の前に正座で座り、
周りの目を丸くした。
「蒼君はまだ若い。その歳なら充分な技術を身につけることができる。夏目屋も安泰だ」
「じゃ…」
その言葉に蒼は驚愕と共に思わず笑みが零れた。
「不束な娘と汚くて小さい店ですが、これから宜しくお願いします」
深々と頭を下げた父親に、
蒼も気持ちに応えるように深々と頭を下げた。
突然のことに両親も戸惑いと葛藤があったに違いない。
しかし否定もせず最後まで私達の聞いてくれた優しさと寛大な心が、何よりも嬉しい。
自慢の両親だと思わずにいられなかった。
その日、私達は実家に一泊することになった。
二階の私の部屋で一緒に眠る。
「奈緒子さん、気分どう?」
「大丈夫だよ」
一つの布団に別々に寝て、顔だけ互いの方に向ける。
「蒼君こそ大丈夫?だいぶお父さんに絡まれてたでしょ」
ずっと家庭では男一人だったから、
蒼が来てくれて余程嬉しかったのだろう。