滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
「お疲れ様、奈緒子さん。頑張ったね」
蒼が満面の笑みで笑いかけてくれる。
「偉いわ。よく頑張ったわ」
母親が嬉しそうに目を細める。
「はい、抱いてみますか?」
タオルに包まった赤ちゃんが、
分娩台に座る私の腕の中にすっぽりと入った。
「小さい…」
指を伸ばせばぎゅっと掴んでくれる、
小さい小さい手。
これからどんなものを見て、
どんなものを感じて生きていくのだろう。
「あ、何かもうちっちゃい奈緒子さんに見えてきた」
「そうねぇ、どっちかというと奈緒子似かしら」
赤ちゃんを見つめながら、
みんなで笑みを零す。
こうやってたくさんの愛情に包まれながら、
この子は生きていくんだね。
「元気に生まれてきてくれてありがとう」
家族が増えたぶんだけ、
喜びも楽しみも幸せも増えていく。
強くて太い絆で支え合って生きていくんだ。
the end