滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
「ん…」
窓から差し込む眩しい日差しに気づいた彼は、
ベッドの上で軽く寝返りを打った。
そしてそっと手を延ばす先には…。
「…!」
何かに気づいた彼はいきなり目をカッと開いて飛び起きる。
そして隣に目を移すと、
いるはず私の姿が無い事を知った。
「奈緒子、さん…?」
彼は裸のままベッドから降りて室内を歩き回る。
バスルームに洗面台。
トイレにも私の形跡はない。
「…」
そして探し回った後に目に入ってきたのは、
リビングルームにある一枚の紙切れ。
ゆっくり近づきその紙に目線を落とす…。
“いろいろありがとう。さようなら”
走り書きをした私の言葉に、
考え深げにグッと目を閉じて、
ただ呆然と立ち尽くすだけだった。