滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
「夏目さん、朝の朝礼終わったら会議室来てもらえます?」
「はい、わかりました」
彼は私にそう言って足早に先を歩くと、
止まっていたエレベーターに乗り込みそのまま消えて行った。
「なーんか部長って好かないな、俺」
ムッとしながら愚痴る俊介。
その隣でまだ顔の火照りが収まらない私。
ーー会議室。
また…、されるのかな。
彼の唇についた傷を見るたびに、
先日の事が脳裏に過る。
それに彼のニコッとした笑顔を見ると、
何故か冷やっとしてしまう。
だって目は笑っていないから。
笑顔の裏で、彼は全く違うことを考えていることを知ってしまったからだ…。
アメリカで会った彼と上司の彼。
それはあまりにも違いすぎて、
どちらが真の彼なのか、戸惑うばかりだった。