滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬

吐息がふわっと耳にかかってピクッと体が反応してしまう私だが、

彼はその姿を横目でチラリと見ながら話を続ける。




「俺がここにやってきたのはね、他でもないアンタに会いにきたからだ」





…え?



そっと耳から離れた彼は、
目を大きく見開いて驚く私を真っ直ぐ見つめて言った。



「奈緒子さんの財布に会社のIDカードが入ってて、色々コネを使ってここに来たってわけ」

「コネ?」

「もちろんちゃんと開発について勉強してきたよ?何もできない部長じゃ、簡単に怪しまれちまう」

「だから、コネって何?会社に知り合いでもいるの…?」





うちの会社は就職の倍率が高い上、採用人数が少ない狭き門だと巷では言われている。





それをたったコネクションだけで入れるなんて、

相当な人脈じゃないと難しいだろう。

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