滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
「何をしている。騒がしい」
その時、低音の声色と共に黒い人影が受付にスッと現れた。
「…」
腹を立てたままのムッとした表情のまま、
流し目でその影を睨みつける。
「っ、社長…!」
突如として現れた人物に受付嬢がハッと恥ずかしそうに声を上げた。
オールバックに目尻や豊麗線に深いシワがはいり、口髭を生やし定年を超えた初老の男。
気だての良さそうなスーツを着ていて、
受付のテーブルに前のめりになって寄りかかる俺を、
相手は冷ややかな目で見下ろしている。
「…話があんだよ、シャチョウさんよ」
「…」
表情変えずにずっと男を睨みつけて呟く俺に、
相手も全く怯むことなく黙って見下ろしたままだ。
その互いの気迫は辺り一体を緊迫感に包み込むほど、張り詰めていた。