赤い流れ星




「向こうに着くまで眠ってたらどうだ?」

「大丈夫ですよ。
俺の方が少し若いんですから、和彦さんこそ眠ってて下さいよ。」

「俺と君とじゃ、鍛え方が違うさ。
このくらい、なんともない。」

「そうですか……」

俺は、流れ行く車窓からの景色に目を移した。



あれから、俺達はすぐに駅に引き返した。
男性と奥さんの旅した場所へ向かうためだ。
和彦さんの行動力と体力は本当にすごい。
すぐにそこまでの行き方を調べ、旅館の手配まですませてしまった。
俺は、ただ和彦さんに言われるままに着いて行くだけだ。




「和彦さん…さっきのあの妹さんの話……」

「あと一人はどこでどんな奇跡を起こしたんだろうな…?」

和彦さんが話を変えたのは俺の質問に答えたくないからかと思ったが、和彦さんの言った言葉の意味に俺はふと気が付いた。



「あと一人」

……と、いうことは、和彦さんは奇蹟を起こした三人のうちの二人をすでに知っているということだ。
それは、あの男性と、そして……ひかりのことを言っているのか!?




「和彦さん…」

「ルームメイトから俺はいろいろな話を聞いた。
最初は、そんなもの全く信じちゃいなかった。
いや、信じてないというよりは関心がなかったってことだな。
彼らの言うようなことが本当にあろうとなかろうと、俺には何の関係もないから。
だけど、やっぱり一緒にいると影響を受けるんだよな。
実際、そいつはとても良い奴でさ。
とっても純粋で、自分のことよりも他人のことを先に考える…そういうタイプの男なんだ。
奴には偏見や差別もない。
そんな奴だからこそ、俺も信じられたのかもしれない。
……ああいうものってよく『目に見えない世界』って言われるだろ?
それって、見えないんじゃなくて見る側の問題なんだなって思ったよ。
きっと死角みたいなものなんだ。
でも、たとえばほんの少ししゃがんだり位置を変えたりすれば、それは簡単にみつけられる……
俺は、それを知ってから今まで見えなかった世界が見え始めたように思える。
……まだほんの少しだけどな。」

和彦さんはそう言って、失笑した。
和彦さんが何を言おうとしているのかはいまひとつわからなかったが、今の話にはなんらかの心情が隠されているような気がした。
< 108 / 171 >

この作品をシェア

pagetop