赤い流れ星




「良い月だなぁ…」

「本当に……」



着いた場所は、とても静かな山の中腹の旅館だった。
俺達が着いた頃にはすっかり夜も更け、仲居さんに話を聞く事も出来そうになかったが、和彦さんは特にそのことで焦ったような様子はなく、俺達は、のんびりと露店風呂に浸かることにした。
時間が遅いこともあってか俺達の他には誰もおらず、気分的にもとてもリラックス出来た。



「……あの夫婦もこんな風に月を眺めたんだろうか?」

「そうかもしれませんね……」

俺達は、夜空に浮かぶ少し欠け始めた月を見上げた。
その空にも星が零れ落ちそうにいっぱい輝いて……
ひかりを迎えに行く時にいつも見ている空を思い出した。



「なぁ……死を覚悟しながら入る風呂って……一体、どんな気持ちなんだろうな?」

月を見上げながら、和彦さんがまるで独り言のように俺に問いかけた。



「……そうですね……意外と落ちついているのかもしれませんよ。
覚悟してしまうまでにはいろいろと葛藤があるでしょうけど、完全に決心してしまえば心は騒がないものなのかもしれません。」

「……彼らに、他に選ぶ道はなかったと思うか?」

「あったとは思います。
でも、その中からあの人達がその道を選んだのなら……
それは……」

和彦さんの唐突で重い質問に俺は内心面食らっていた。
急には頭の中も整理が出来ず、俺は言葉に詰まった。




「それは…?」

「……俺にもよくわからないんですよ。
『仕方ないのことだ』っていうのが一番ぴったりしてるかもしれないけど、なぜかそうは言いたくない。
だけど『正しかった』とは言えない…かといって『間違っていた』とも言えません。
男性が、あの妹さんや和彦さんの推測通り、奥さんを亡くしてしまうことに耐えられず、そんな道を選んでしまったのだとしたら……
そう…『とても残念な事』ですね。
でも、俺にはなにも出来ない。
だから……余計に悔しいですね…」

話しているうちに、俺は自然とそんな風に答えていた。
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