赤い流れ星
「そうだな…
どれほど絶望的に思えることにも、必ずいくつかの道はある。
だけど、たいていの者はそんな場合、最悪の道を選んでしまう……
自ら命を捨てるってことは、やはりどう考えても最悪なことだよな。
……でも、俺にもそれをいけないとか間違ってるとは言いきれない気持ちがある。
たとえば、ここに来たあの人は、最愛の人を亡くしまだその深い傷が癒えていない時に、再び同じことを経験させられることがわかったわけじゃないか……
……俺だってそんなことになったら……きっと同じことをしたと思う。
もちろん、こんなケースはまずめったにはありえないけどな。
……それにしても、カリスタリュギュウス流星群はなんだってこんな残酷な奇蹟を起こしたんだ……」

「それは、あの人がそう望んだからですよ……」

和彦さんは少し驚いたように俺の顔を見た。



「……君はけっこう毒舌家なんだな。」

「本当のことです。」

「確かにその通りだな。
……俺は、あの男性にはなにも出来なかった……だが、君達には出来る事がたくさんあると思う。
だから、君達は絶対に最悪の道は選ぶなよ。
いや、俺がそんなことは絶対に許さないからな…!」




その言葉で俺はやっと気付いた……和彦さんはあの男性と俺達のことを重ねて見てたんだ。
戸籍もなく、おそらく年を取ることもない俺は、きっとこの先、絶望的な状況を体験することになるだろう。
和彦さんはそんなこともなんとなくわかっていて俺を救おうとしてくれている……
俺が、違う世界から来たってことを信じてくれている…!



「和彦さん……俺……あっ!」

和彦さんは、突然、俺に向かってお湯を浴びせ掛けた。



「なんて顔してるんだ。
辛気臭い顔はやめろ!」

「和彦さんこそ、子供みたいな真似しないで下さいよ!」

俺は、同じように和彦さんにお湯をすくってかけて返した。



「あーーーーーっ!
俺はそんなに酷くかけなかったぞ!
畜生!」

「あっ!やめて下さいよ!
大人気ない!」

「大人なのはそっちも同じだろ!」

俺達は、他の入浴客がいないのをいいことに、ばしゃばしゃとお湯をかけ合い、大きな声で笑った。
いつも心の深い所に居座っていた重い気持ちも忘れて、俺はこの世界に来て初めて腹の底から笑えたような気がした。
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