赤い流れ星
私は火を止めて、シュウの元へ向かった。

「美幸、どこ行くの!」

母さんのヒステリックな声にも私は振り向かなかった。



「シュウ……」

「和彦さんだった。
おまえが電話に出ないから、俺にかけたみたいだ。
なんとかして、今夜中に戻るって。」

「そう…それでこっちの事情は……」



「美幸!なに、こそこそ話してるの!」

シュウと話す前に母さんが現れ、私は話すのを諦めて、また台所へ戻った。

思った通り、電話の主は兄さんだった。
もうそろそろ電車もなくなるはずだけど、本当に帰って来れるんだろうか?
でも、あの兄さんならきっとなんとかしてくれる。
そう信じて、私は兄さんが戻るまで何とかこの場を取り繕うことを決意した。







「本当にいらないんですか?」

「ええ。
あなたの作ったものなんて、信用出来ません。
私のことは構わないで下さい。」



母さんは頑なに食事を拒否した。
でも、台所からも出て行かない。
こういうのを針のむしろって言うんだろうな。
母さんの冷たい視線にさらされながら、私達は食事に手を着けた。
気分的には食べたくはなかったのだけど、腹が減っては戦は出来ぬ!
それに、兄さんが帰って来るまでなんとか間を持たさないといけないから。
私とシュウは押し黙ったまま、黙々と箸を動かした。
だけど、時間稼ぎのために、わざとゆっくりと。



食事が済んだらお風呂。
母さんはお風呂も入らないと言い張り、私が入る間もお風呂場の傍で立っていた。
まさに監視状態。
母さんがこんなに性格悪いというのか、執念深いとは思ってもみなかった。
シュウが入ってる間は、ずっと私のそばにいて、だからと言ってなにも話さない。



「母さん、お風呂くらい入ったら?」

「いやよ。
あんな得体の知れない男の入った後なんて、気持ち悪くて入れないわ!」

「そう…じゃあ、好きなようにすれば良い!」

本当は部屋に戻りたかったけど、そうすると母さんも着いて来るだろうと思い、私は見るとはなしにテレビを見ていた。
それにしても、夜も更けてきたというのに、兄さんは戻って来ない。
やっぱり無理だったのかもしれない。
この時間じゃもう電車はない筈だもの。
だったら、疲れたふりをして、早く寝てしまった方が良いのかも知れない。

そう考え始めた頃、家の前に車の停まる音がした。
< 131 / 171 >

この作品をシェア

pagetop