赤い流れ星
「どうしたんだ、ひかり?」

シュウは突然泣き出した私を見てとても驚いた様子で、椅子から立ち上がり身を乗り出した。
私はそんなシュウから逃げるようにして、後ろを向いて顔を伏せた。
そして、二人の間には、長い沈黙が流れ……



「……ごめんな。驚かせて。
……俺…出て行くよ。」

「……え?」

シュウは、小さな声でそう言うと身を翻す。



「ちょ…ちょっと…出て行くって……」

「……心配すんなって。
なんとかなるさ。」

シュウはそう言って、私の頭を子供にするようにぐりぐりとなでまわした。



「じゃ……」

「ま、待って!」

私は立ち去ろうとするシュウの腕をがっしりと掴んだ。
そして、もう片方の手でごしごしと涙を拭って…



「シュウ……あんた、この世界で戸籍も何もないのに、どうやって生きていくつもりなのよ!
そんな得体の知れない男、誰も雇ってなんかくれないわよ!」

普段よりもずっと強い口調で、私はそう言った。
だって…シュウが出て行く理由なんてないんだもの。
シュウは、私の顔をまじまじとみつめてるかと思うと…
……予想外に、突然、噴き出した。
そして、傍にあったティッシュの箱を私の前に差し出す。



「はい、これでチーンして!」

「え……?」

「ついでに顔も洗って来いよ。
そんな真っ赤な鼻してると、サンタさんに連れていかれるぞ!」

そう言うと、バケツとぞうきんを手に、シュウは部屋を出て行った。



(……どういうこと?)




シュウの豹変ぶりに戸惑いながら、私は言われた通りに洗面所に向かった。
昭和な四角い鏡の前で、私は呆然と自分の顔をみつめていた。
本当だ…
あり得ないくらい、鼻だけが真っ赤になって…
……しかも、鼻水が垂れていた…



もしも「全日本間抜け顔大会」なんてものがあったなら、間違いなくこの顔が優勝しただろう…



悲しすぎるその顔に、私は思いっきり水を浴びせ掛けた。
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