赤い流れ星
「ば、馬鹿なこと言わないで!
シュウは…兄さんの友達で、兄さんが呼んで、それで一緒に暮らしてるんだから……何も悪いことはしてないから、警察に言ったってどうにもならないわ。」

私は動揺を母さんに悟られないように、出来るだけ平気なふりをしてそう話した。



「何言ってるのよ。
未成年の娘を暴行されたんですもの。
訴えれば罪になるわよ。」

「だから…私達、そんなこと何もないって言ってるでしょ!」

「そんなこと誰が信じると思ってるの?
それにね、そんなことは調べればすぐにわかるのよ。」

酷い!
母さんはなんて卑怯な手を使うんだ…!
大声で叫びたいような…泣き出したいような……
どうしようもなく激しい憤りを感じ、私は立ちあがった。



「じゃあ、今から調べてもらおうよ!
病院がすぐそこにあるから!
さぁ、母さん!早く!立って!」

私は、母さんの腕を掴んで引っ張った。
悲しくて悔しくて、心臓が飛び出しそうにどきどきして身体が震えて止まらなかった。
こんなに話しても母さんは少しも私の話を信じてくれない。
今までこんなに激しい喧嘩をしたこともなかったし、母さんがこんな人だとも思ってなかった。
怒りや絶望感や…様々な感情がこみあげてきて、私はめまいを起こして倒れてしまいそうになっていた。
タイミング悪く、ちょうどそこへ料理が運ばれてきて、店員さんは困ったような顔をして私達を見ていた。



「美幸、座りなさい。」

「いやよ!これから病院に行くんだから!
母さんこそ早く立ってよ!」

私ももうひっこみがつかない状況になっていたから、母さんの言うことを聞かず、なおさら力をこめて母さんの腕を引っ張った。



「美幸!」

母さんのもう片方の手が私の頬を打ち……
その瞬間、私の張りつめていた気持ちがぷつんと切れて、私はその場にしゃがみこんで大きな声で泣き出していた。
もう何がなんだかわからない。
頭の中も心の中もごちゃごちゃになって、私はただ泣くことしか出来なくなっていた。
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