赤い流れ星




(ちょっと遅いんでないかい?)

私は壁の時計を見上げた。
シュウが家を出てから、もう1時間が経っていた。
私は、庭の片付けも玄関の草引きも終えて、もちろん、お皿も洗った。
こんなにてきぱきと身体を動かしたのは、かなり久し振り…いや、生まれて初めてのことかもしれなくて、私はちょっと疲れてお茶を飲んで休んでた。
なのに、40分を過ぎ…50分を過ぎて、1時間が過ぎてもシュウは戻ってこなくて…



(もしかして…
やっぱりシュウなんていなかった?
あれは、全部、私の妄想?)



そう思うと、私は急にものすごく不安な気持ちに襲われた。
どうしよう…そこまで酷い幻覚を見るようになってたとしたら…
不安にかられ、とりあえず母さんに電話しようと立ち上がった時、玄関の引き戸が開く音が聞こえた。



「ただいまーー」

シュウの声だった。
でも…顔を見るまでは……




「玄関、えらく綺麗になってるな!」

「シュ…シュウ!」

「はい、これ。」

シュウは、むき出しの洗剤を私に手渡し、庭の方へ歩いて行く。



「わぁ、庭もずいぶんさっぱりしたなぁ…
……大変だっただろ?よく頑張ったな!」

シュウは、庭を見て嬉しそうに目を細めた。



「な?綺麗な方が……あれ?ひかり、どうかしたのか?」

私は余程おかしな顔をしていたのか、シュウは私の顔をのぞきこむようにして私に声をかけた。



「どうかって……遅いから、私、心配で……」

「そんな遅かったか?
店でちょっと話して、そこらを散歩しながらゆっくり歩いて来ただけだぞ。
だけど…本当に良い所だよなぁ……
のどかで……なんか、時間の流れを忘れてしまうっていうか…
あ、それで遅くなったのかな?」

シュウは私の心配をよそに呑気に話して笑った。
このあたりのことを気に入ってくれたのはちょっと嬉しい気もするけど、私はなんだか複雑な心境だった。




「あ、そうだ。
店のおじさんが俺のこと怪しんでたみたいだったから、ひかりの兄貴だって言っといた。」

「そ…そんな……」

「まずかったか?」

「えっと……」

まずいかどうか、咄嗟にはよくわからなかったけど、とにかく私は気持ちがもやもやしてて……



「ちょっと出かけてくる!」

そう言い残し、私は外へ飛び出した。
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