赤い流れ星




「じゃあ、兄さんはここに来たんですね?」

「あぁ、来たよ。
あんななりをしてる人はここにはいないから、間違えるわけないよ。」

「そ、そうですか。
じゃ、入れ違いになったのかなぁ……
あ、ありがとうございました!」




私は、下手な芝居をしておじさんに頭を下げ、店を出ると、今来た道を自転車に乗って全速力で走った。
いつもよりもずいぶん早くに走れた気がする。
私は玄関脇に自転車を停めると、家には入らず畑に向かった。
畑の片隅に腰を降ろし、私は大きく息を吐き出した。



やっぱり、シュウは幻覚なんかじゃなかった。
山下商店のおじさんにシュウのことを聞いたら、おじさんは事も無げにそういう男がやって来たと認めてくれた。
ただ、店に来たかどうかを聞くなんて不自然だと思い、私は兄を探してるふりをした。
普段は、欲しい物を選んで黙ってお金を払うだけだから、私は今までおじさんと話したこともなく、話すだけでもけっこう緊張するのに、そんな私が下手な芝居までしてしまったことが、なんだかとてもおかしく思えた。
私は、大人と必要以上の話をするのは苦手だ。
だから、まさかシュウがおじさんと話をするなんて考えてもみなかったのだけど、却ってそれが良かったのかな。
近所には人は少ないとはいえ、いつかはきっと見られるだろうから、シュウを兄と言っておいた方が変な詮索をされずにすむような気はする。
父さんや母さんは、あの店に行く事はまずないし、行かせなければバレることもないと思う。
現実に私には一回り年の離れた兄がいて…シュウとはちょっと違うタイプだけど、けっこうかっこいい。
今、兄さんはイギリスにいるし、ここには来たこともなければ今後来ることもないだろうから、嘘を吐いても問題はない。

そんな事を考えていると、私はようやく気持ちが落ち着いてくるのを感じた。



(まとめ。
シュウは現実。
近所の人達にはシュウは兄と言うことにする。
父さんや母さんは山下商店に行かせないように注意。)



気持ちが晴れたのを確認すると、私はすっくと立ち上がった。
家に戻ろうと思ったけど、きっと突然飛び出した理由をシュウに聞かれるだろうから……



(……そうだ…!)

私はひらめいた小細工を遂行すべく、そこらの野菜をもいで家に戻った。
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