赤い流れ星




「う~ん……」

シュウは腕を組み、私が切ったばかりの野菜の前で小さな唸り声をあげた。
どういう意味の唸り声なんだろうと考えていると……



「……35点って感じ?」

え…?それって……
もしかして、野菜の切り方の採点…!?




「ちょ…ちょっと…どう……」

「まず、いくら無農薬だからって野菜を洗わないで切ろうとしたのはないよなぁ…
それに、きゅうりは塩もみもしなかったし、皮もむかなかった。
口の中がとげとげしそうだ。
その上、すごく時間がかかったし、レタスは手で千切るってことを思いつかないもんかねぇ…
しかも、野菜屑はこんなに散らかってるし…
ひかり…これ、厳しい先生だったらせいぜい15点しかもらえないぞ。
俺は、ちょっと甘過ぎかなぁ…」

……よくもそんなに悪口が言えるもんだと私は呆れた。
そりゃあ、料理なんてめったにしないから下手なのは自分でもわかってるけどそこまで言う?
……そうだ!よく考えたら、シュウと私は今日初めて会ったばかりで、つまりは初対面だっていうのに、普通、初対面の相手にそんなに遠慮無しに言えるものか!?



「……あれ?
もしかして、凹んだ?」

シュウは私がなにも言わないことで、少し気にしたのか…いや、楽しんでるだけかもしれないけど、意味ありげな笑みを浮かべて私の顔をみつめた。
腹が立ってるのに…その顔があんまり素敵で、私は恥ずかしくなって顔を伏せた。



「ま、そう凹むなって!
最初のスタートが35点だと、逆に上りやすいぞ!
ちょっと練習すればすぐに50点、60点って上がっていくからな!
よしっ!今夜はサラダと…ピラフにちょっと手を加えて食べよう。
……ひかりは、特に嫌いな物ってあったっけ?」

「え……まぁ、それほど嫌いなものはないかな。
とりあえず、なんでも食べれることは食べれる。」



でも、本当はなすは嫌い。
確かに食べられないことはないけど、出来れば食べたくはない。
だけど、嫌いなものがあるって言ったら、きっとシュウはわざとそれを使いそうだから、私はあえてなすのことを言わなかった。




「じゃ、サラダにはこれを使うとして…」

シュウは、かごの中から嬉しそうに少ししなびたなすを取り出した。




「ピラフにはなすも入れよう~」

歌うようにそう言ったシュウの笑顔は妙に嬉しそうで…そして、悪意のようなものが感じられた気がした。



(まさか、私がなす嫌いなことを知って…)

聞いてみたい気がするものの、薮蛇ってことにもなりかねない。
深読みするのはやめ、私は無理に平静を装った。

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