赤い流れ星
「でも、お昼ご飯とか、バス代とかいろいろかかったでしょ?」

「あぁ…昼は百均でおにぎりとお茶買って食べた。
それと、帰りは……歩いて帰って来た。」

「えーーーーっっ!」

そ、そんな……
こんなかっこいいお兄さんが、お昼は百均のおにぎりとお茶?
それはあまりに似合わなさ過ぎる!
シュウには…そう、ちょっと個性的なインテリアの小洒落たイタリアンレストランとか……
そういう所でワインでも飲みながらステーキとか食べるのが似合うのに……
ちょっとしかお金を渡せなかったことが、私には酷く申し訳なく思えて来た。



「……あ……そうだ。
帰りは歩いて帰って来たって言った?」

「うん。
7時までぼーっとしてるのも無駄だし、バス代けっこう高いもんな。
でも、道はなんとなく覚えてるつもりだったのに、どっかで迷ったみたいでさ。
それでちょっと遅くなったんだけど、今度はもう大丈夫だ。
多分、普通に歩けば二時間もあれば行けるよ。」

「二時間」ですと?なぜそんなことを普通の顔で言う?
二時間も歩いて行くなんて…江戸時代の人じゃあるまいし……
しかも、今日はけっこう荷物もあったのに……
私、シュウに「経済観念がしっかりしてる」なんて設定してない筈なのにちょっとすごすぎやしませんか!?




「ひかり…どうかした?」

「え?……あぁ、なんでもない。
で、でも、とにかく無事で良かったよ…」

「……心配してくれてたんだ…」

そう言ったシュウの顔はとても満ち足りた優しい微笑を浮かべてて……
あぁ、そんな顔で私を見ないで!



「シュウ、今のうちにシャワーでも浴びて来たら?
晩御飯はまたおいしいの頼むね!」

私はさりげないふりをして、その場を離れた。
自分でも情けなくなるくらい、私はかっこいい男に免疫がなさ過ぎる。
あんなことを言われただけで、こんなに心臓がどきどきするなんて、私は昭和の恋する乙女か!
でも、私の身近にはかっこいいとかなんとかよりも若い男自体がいなかったから、それも仕方ないのかも。
一応、兄さんはかっこいい部類に入ると思うんだけど、私は兄さんと一回り年が離れてる。
その上、兄さんは早くから家を出てて家にはほとんど帰って来ないし、数年前からは写真の勉強をしにイギリスに行っている。
だから、思い出も子供の頃のことしかない。
学校でも必要以上男子とは喋らなかったくらいだし、特に好きな人もいなかった。
私が好きになるのはいつもゲームやアニメの登場人物ばかりで、現実の人間にはほとんど興味がわかなかった。
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