赤い流れ星




「……どうしたんだ、ひかり?
肉、嫌いなのか?」

シュウが食事の手を停めて、私の顔を心配そうにみつめる。



「そ、そうじゃないの…」

シャワーを浴びて、久し振りに私もパジャマなるものを着た。
ここに来る時に、母さんが買ってくれたいちご柄の可愛いやつ。
いつもグレーとか白とかの愛想のないジャージを部屋着兼寝巻き兼普段着としていた私には、そのパジャマがどうにも気恥ずかしく……
さらに、シュウもパジャマで……
パジャマ着て差し向かいで晩御飯なんて、まるで若い新婚夫婦みたいじゃないですか…!?
ふと、そんなことを考えたら、ますます恥ずかしさは募り……
あぁ、久し振りの焼肉の味ももはやよくわからない……



「嫌いだったら、無理しなくて良いんだぞ。
ちょっと待っててくれたらすぐに……」

「ち、違うの!
本当に嫌いじゃないの。
……私、普段、こういう派手な柄着ないから、それでちょっと……」

シュウは、その言葉に安心したようににっこりと笑った。



「なんだ、そんなことか。
つまんないこと、気にするんだな。
大丈夫!全然似合ってるから!
さっきのあのジャージよりずっと可愛いよ。」




か…か…可愛い?
今、「可愛い」と言ったんですか?



あぁ、まただ。
またこんなしょーもないことで、私の心臓は口から飛び出しそうになっている。
ばかばか!
騒ぐでない!
今、飛び出したら、シュウに焼肉と一緒に食われるぞ!

そんなホラーなことを考えながら、私はシュウに気付かれないように息を吐き出した。
そうそう、リラックス、リラックス。
……そうだ!シュウは、なにも私を可愛いと言ったんじゃない!
いちご柄を可愛いと言っただけなんだ!
なんでもない、なんでもない。



私は心の中で様々な想いと戦い続け、食事は本能に任せた。
本能が手と口を動かしてくれたおかげで、なんとか無事に食事は済んだものの、結局、晩御飯の味はよくわからず仕舞いだった。
あぁ、本当にもったいない……
焼肉なんて久し振りだったのに……

早く慣れなきゃ……
こんなことくらいで、どきどきしないように、慣れなきゃだめだ。
……それによく考えたら、とてもおかしい話だもの。
同じクラスの子達は彼氏にすっぴんを見せるのがいやだから一緒に旅行に行けないだの、つけまつげがなかったら生きていけないだのってよく言ってたけど、私はいまだ化粧すらほとんどしたことがなくて、だから、シュウにもすっぴんを見られてもなんともない。
いや、むしろ、化粧なんてした顔を見せる方がきっと恥ずかしい。
普通の子には恥ずかしいことが私は恥ずかしくなくて、恥ずかしくないことが私は恥ずかしい……
こんなだから仲間はずれになるのも当然だな……
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