赤い流れ星
「ど、どうしたんだ!?
あ……もしかして、久し振りの手料理でお母さんのことでも思い出したのか?」

「ち……そ、そう……」

違うと言ったらすぐにも殺されるかもしれない。
そう思って、私は必死で頷いた。



「馬鹿野郎…そんなことで泣く奴があるか…」

そう言って、シュウは私にハンカチを差し出した。
優しいけど……これも見せかけ?
そうじゃないな。
きっと、変質者でも根は優しいんだ…
頭の中のごく一部がおかしいだけで、きっとそれをのぞけば普通の人なんだ…
……って、殺される直前にそんな人間観察をしてどうなるんだと私は自分自身に呆れていた。



「さ、早く食べてしまえよ。
食べたら、今日は掃除にとりかかるぞ。
……本当に酷いザマだな…
よくも平気でこんな汚い所に住んでたな…」

「え……汚いって…二階にあがったの?」

「いや…二階はまだだけど…」



そんな……下はあんまり使わないから、比較的、汚してない筈なんだけど…
あ、もしかしたらお風呂場を見られたのか、それとも…この人、潔癖症?



(あ…違う、そんなことより、先に確かめなきゃいけないことがあるんだ…!)



「あ…あのぅ……」

「黙ってちゃっちゃと食べる!」

「は、はい!」

有無を言わさぬその言葉に、私は反射的にごはんをかきこんでいた。
それにしても、ごはんの炊き具合もちょうど良い。
炊飯器にしこむだけなのに、私はたまに水加減を間違えて妙にやわらかかったり固いごはんになるっていうのに…きっと、この人は几帳面な性格なんだな。
それに、味噌汁だけじゃなく、どのおかずの味付けもおいしく出来てるし、切り方も繊細で上手だ。
慌てて食べながらも、そんなことについ感心してしまう。
ふと、視線を上げた時、シュウが真っ直ぐに私を見ていることに気が付いた。
な……何なんだろう?
私は緊張と恥ずかしさでどんどん顔が熱くなっていくのを感じる。



「あ…あの…」

「……もしかして、相当腹減ってた?」

「え…べ、別にそういうことは…」

「そうなんだ?
それにしちゃあすごいスピードだな。
トロそうに見えて、けっこう素早いことも出来るんだな。
この調子で掃除も手早く済まそうぜ!」

そう言うとシュウはにっこりと笑った。
か、かっこ良過ぎるんですけど~~!
まるで、芸能人のような爽やかで人懐っこい笑顔に放心した私は、またしても箸を落としてしまった。
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