赤い流れ星




「本当に手際が悪いなぁ…
良いか?洗ってる時は水を出しっぱなしにしてたって無駄なだけだろ?」

いつもなら夜にまとめて洗う食器洗いを、食後すぐにさせられた。
しかも、真横について、私が洗う様を見ながらごちゃごちゃと文句を言う…
さすがにむっと来たけど、刺激してはいけない。
今はおとなしくしておくべきだと、私は素直に言うことに従った。
眠気は特に感じないけど、睡眠薬は入っていなかったんだろうか?
そういえば、掃除をさせるつもりみたいだから、もしかしたら朝食には何も入れてないのかもしれない。
そう思うと、不安な気持ちがずいぶんと和らいだ。



「それじゃあ……と。」

食器を片付けた所で、シュウはやる気満々にTシャツの袖をまくった。



「あ、その前に少しだけ話をさせて下さい。」

「……なんだよ。
サボろうと思っても無駄だぞ。」

「あの……いくつか質問はあるんですが…
まず……えっと……お名前を……あ、ニックネームでも良いですよ。」

考えてみたら「どういう目的でここに来たのか?」なんて聞いても、まともに答える筈がない。
名前を聞いて、親密さを感じさせると相手も少し油断するかもしれないと、私は咄嗟に思い付いたんだ。



「は?今更、何言ってんだ?
まさか、まだ寝惚けてるってわけじゃないよな?」

「え…?」

「……まさか、本当に忘れたのか?
どうした?ひかり、頭でも打ったのか!?」

シュウは、私の両腕を掴み、心配そうに私の顔をのぞきこむ。



(ひ…ひかり?)



そのペンネームのことをなぜ知ってる?
家族にも言ってない。
家族は私がネットで携帯小説を書いてることすら知らないんだもの。
数少ない知り合いにも、当然言ってない。
なのに、この人は、なぜそのことを…?



ま、まさか、本当に……



「……シュウ?」

「そう!そうだよ!
思い出したか?
大丈夫か?
他になにか思い出せるか?」

「う…うん…
本名は神咲愁斗、身長180cm、体重59kg
牡羊座、AB型…好きな食べ物は、焼肉とスィーツ…」

「そうだ!」

「わっ!」

シュウの胸に抱き締められ、私は咄嗟にそれを押し戻そうとした。
だけど、シュウは力一杯私を抱き締め離してくれない。



う……うそーーーーー!
このシチュエーションは、まさに、携帯小説じゃないか!
……って、ことは、もしかしたら、この後は甘い……チュー…?

頭の中がピンク色の妄想でくらくらしていると、突然、その頭をぐりぐりとなでまわされた。



「心配させるなよ!
あぁ、びっくりした。
じゃあ、掃除にとりかかるか!」

シュウは、そう言って私の肩をぽんと叩いて微笑んだ。
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