シュシュ
「お父様、あんな男って誰ですか?

お父様が他人をそんな呼び方するの、

初めて見ました」

そう言って首を傾げると、お父様は、微笑んだ。


「あの男だけはそれでいいんだ。

ワシを脅して、薫子と見合いをさせろと言い出した」

そう言ったお父様の顔から笑顔が消え、眉間にしわを寄せていた。

普段はとても温厚な父だけに、ちょっと驚く。


「…気になります、誰か教えていただけませんか?

私の知らない人なんですか?」

私は身を乗り出して質問する。

お父様は咳払いを一つした。


「水野エンタープライズの、水野…仁だ」

「水野…仁?」


…どこかで聞いたことがある名前。

誰だっけ?・・・しばらく考え込む。

・・・あ。思い出した。

水野仁は、みっちゃんの上司。

・・・ん?西条株式会社の経理課の部長なのに、なんで、

水野エンタープライズの社名が出てくるの?

更に考え込んでしまった私に、お父様は言った。


「水野の事は、知ってるかもしれないな。

水野は、西条の経理課の部長をしてる・・・

なぜ、そこにいるのか・・・その理由は、薫子、お前だよ」


「…私?」


「あぁ。お前に近づく為だ。

水野は父が経営する会社の跡継ぎだ。だから、いずれは、

西条は辞めるだろう・・・西条で薫子を手に入れさえすれば、

西条など用はないはずだ」
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