シュシュ
「今日はあいにく、マリアが不在だからな。

先方にはワシから連絡しておく」


そこで話は終わった。

…山間にある私の実家は、ちょっとやそっとでは、

誰にも見つかる事はない。

おかげで携帯の電波が届かないのが難点だが、

それ以外は、最高に住みやすい家だ。

・・・まるで、お寺のような出で立ちの家だが、

それがまた、古風で、親しみがあって、私は好き。

…また、騒がしい都会に帰る時間がやってきてしまった。


「家まで送る」

「…ありがとう、お兄ちゃん」

私の言葉に、いつもの優しい兄の笑顔がそこにあった。

時に意地悪で、私を泣かせる事が趣味のような所があるが、

本当はとても優しい兄だと言う事を知ってるから、

私はいつも思う、優しい兄が本当の兄だと・・・

良いように解釈しすぎかもしれないけど。


マンションに着くと、私は目を疑った。

見覚えのある車。

…あれは紛れもなく、飛鳥さんの愛車だ。

何でこんな時間に、ここに車があるのか。


「…着いたぞ、降りないのか?」

「…え、あ、うん、降りる。ありがとう」

私は恐る恐る車を降りた。
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