シュシュ
「訳を聞いちゃまずいかな?」

車を走らせる事、数分。東吾が私に聞いてきた。



「…好きな人が、家に来そうだから、逃げたかったの」

「…逃げる必要なんか、ないんじゃない?」

…丁度信号が赤に変わり、私に視線を向けた東吾。


「…どうしても、逃げる必要があったの」

「・・・」

もう、東吾はそれ以上、私に追及してくることはなかった。

騒がしい街を抜け、山道に入り、いつの間にか、

自宅に着いていた。


「・・・ありがとう」

「…いや、これくらい」

「また今度お礼します」

「礼なんていらないよ…それより、今の悩み事を、

一人で抱え込むことはするなよ?いつでも聞いてやるから」


「・・・う、ん」

私の返事に、微笑んだ東吾は、車を出し、会社に戻っていった。

溜息をつき、玄関を開けると、目の前には優しい笑顔を浮かべたお母様が立っていた。


「お帰りなさい、薫子」

「・・・ただいま」

もうそれ以上言葉は出なかった。

私は黙ったままお母様に抱きつき、泣き崩れた。
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