シュシュ
…心はどんよりと真っ暗な曇り空みたいなまま、

でも表面上はずっと変わらず笑顔のまま、

定時まで仕事をこなし、午後5時半。

私と玲子さんは仕事を終えた。


「お疲れ様でした」

「お疲れ、薫子ちゃんは呑み込みが早いから、

教えがいがあるわ、これからも頑張ってね」


「はい!・・・あの」

「・・・ん?」


「私ちょっと、化粧室に行ってきますね」

「はいはい、私は先に更衣室で着替えとくから」

「はい」


受付から私と玲子さんは別々の方向に向かう。

私は誰もいない場所を見つけ、名刺を取り出した。

…秘書の石坂さんの携帯を鳴らす。

もちろん断りの電話をする為に。


…それなのに、何度鳴らしても携帯は繋がらない。

困った…断りたいのに、断れない。

…それならいっそのこと、社長室に行ってみようか?

そう思い立った時だった。

足早に石坂さんと社長が社の外に向かって歩いていく。

声をかけようと思ったが、2人ともとても急いでいるようで、

喋りかけるなんて事は出来なかった。

・・・あ。

石坂さんが私を見て、ちょっとニコッとした・・・のに、

やっぱり喋りかけられなかった。
< 16 / 220 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop