シュシュ
ギュッと抱きしめられ、薫子は真っ赤になり固まる。

一体どうして抱きしめられているのか、

さっぱり分からないと言った顔で。


「俺は、てっきり、空き巣でも入ったのかと思った」


俺の言葉に、俺の顔を見上げた薫子は、

目を見開いていた。

その顔があんまり可愛いから、また笑ってしまう。

そのしまりのない顔が、何とも言えない。


「あ、飛鳥さん」


「・・・ん?」


「誤解を招くようなことをしてごめんなさい」

相変わらずの赤い顔で、そう言った薫子はポスッと、

俺の胸に顔を埋めて、その顔を隠した。


…今思えば、初めて薫子をこの腕で抱きしめたんだよな。

背が低くて華奢な体つきだとは思っていたが、

抱きしめると壊れそうだ。


「謝る必要はない。おれが勝手に誤解してたんだしな」

…この後の会話が、何も浮かんでこない。

…いや、喋らなくてもよかった。

こうやって薫子を抱きしめられるんなら、このまま

時が止まればいいとさえ思う。


「…あの、飛鳥さん」

「何?」

「そろそろ離れてもいいですか?

・・・恥ずかしいんですけど」

そのささやかな願いも、この言葉でいとも簡単に

終わってしまう。
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