一生のタカラモノ
トントン…
「失礼します…」

ドアを開けると 鉄製の椅子に座っている宙さんがいた。

「えっと… 小林 湊… でいいんだよな?」
「…はい。」

意味分かんないんだけど。
昨日、名前教えたじゃん…
「湊 って言うんだー?」って言ってたじゃん。
なんで? あたしなんかした?

あたしの目にはいつの間にか 涙がたまっていた。

「…どうした? 小林。 泣くほど嫌なことがあったのか?」

“小林”…?

ふざけないでよ…
あたしんとこ、こんなに好きにさせといて…
なんなの…?

「…意味..わかんないっ…
ねぇ、なんで? 宙さん.. なんで?」

「俺はお前の先生だぞ?
“先生”って呼ばなきゃ。 どうしても名前で呼びたいなら、“宙先生”って呼んでもいいから。な?」

と、言いながら 笑顔を向けてきた。
でも 昨日の笑顔とは違う…。
作り笑いって感じの笑顔…。

「俺から話はない。 こんどからちゃんと日直とかの仕事しろよー」

「…はい」

あたしはこの一言しか言わなかった。
……言えなかった。

宙さん…
ううん、宙先生… って呼ばないといけないんだよね。
なら、ちゃんとそういう風に呼ぶ。
頑張って諦める。
…いっそ 諦められたらすごく楽なのに……。
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