花蓮~麻美が遺した世界~【完結】
「哲さんって、からかい甲斐あり過ぎだからね!」
「そんな事ないし」
「自覚症状ないのが、まじでウケル」
その後も、朱美ちゃんは俺をからかうように含んだ笑いを見せた。
気恥かしくて、朱美ちゃんを直視出来ない。
「さーカラオケカラオケっ」
弾んだ声を出しながら、朱美ちゃんはヘルメットを被った。
俺も同じ様にして、バイクに跨る。
朱美ちゃんは俺に抱きつく事なんてしない。
シートの後ろを持って、風を受ける様にわざとしていた。
元花蓮。
普通の女の子とは違うんだと思う。
だからこそ、朱美ちゃんをバイクに乗せようと思ったんだ。
「ねー哲さん」
「何ーー」
「……ううん、何でもない」
「えええー?何々?」
「後で言うーーー」
「えーーー??」
「やっぱり、バイクはさいこーだな」
気になる俺のもやもやした気持ちなんて、朱美ちゃんにはもう関係ないみたいで夜空を仰いでいる。
満点の星空。
少し肌寒い気温。
不思議と。
“麻美と見たかった”とは思わなかった。