花蓮~麻美が遺した世界~【完結】
「上辺だけ見て、取り繕って。
そんなん大嫌いだったの、哲ちゃんだったんじゃねえの?」

「…拓…ごめん」

「謝るなよ、麻美のこと引きずるのが悪いだなんて言ってねえ。
だけど、引きずりながらも前を見ろっつってんだ」


…前を?
俺が、前を向く?



「…それが出来てたら今の俺はいないだろ…?」

「っ!!」


一発。


拓は俺の顔を殴った。


後ろに飛ばされて、頬を抑えながら拓を見つめる。
洋服が雨でびしょびしょだ。
だけど、何も、言葉を発さなかった。


何で殴った拓のがそんなに痛そうな顔してんだよ。


「もう、何も言わない。
哲ちゃん。俺、もう哲ちゃんがわかんない」

「……」

「昔の哲ちゃんはかっこよかったよ。
誰もが憧れるぐらい。
…なんてったってあの麻美が惚れたぐらいなんだから」


殴られたところがじんじんと痺れていた。
でも、それよりも、痛い。

心が痛い。


「今の哲ちゃんじゃ、麻美のこと落とすことなんて出来ねえよ」


昔は揺るぎない、何かがあった。
それが麻美の存在なんだって気付いてからの俺は、さぞかし輝いて煌めいていただろう。
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