花蓮~麻美が遺した世界~【完結】
“ああ、好きだった、な。だった。もう諦めたんだから”
朱美ちゃんの想いに俺は胸が苦しくなった。
「何それ。自分は哲さんが麻美を好きだから、それを邪魔出来ないってわけ?」
「…はあ?」
「綺麗事じゃん。びびってるだけじゃね?」
「もう一度言ってみろよ」
朱美ちゃんが一層低い声を出す。
それを郁美ちゃんが馬鹿にする様に笑いながら話しだした。
「元花蓮特攻隊長も落ちぶれたなあ、ねえ?
好きな男に好きな相手がいたからって、もう麻美はいないんだよ。
遠慮なんかする必要ねえ」
「………」
朱美ちゃんはぎりぎりと、強く拳を握る。
更に顔が険しくなっていった。
だけど、何も言い返せなかったのは俺に麻美って大きな存在がいたからだろう。
それに遠慮するのは、朱美ちゃんの優しさなのに。
自ら身を引いた朱美ちゃん。
二番目でもと積極的な郁美ちゃん。
どっちが正しいわけでもないのに。