花蓮~麻美が遺した世界~【完結】
何も言わない俺に、恋滋は溜息をついてから


「ちょっと、引きずり過ぎだよ。
理想高くなってんじゃね?」


諭すように言う。



「…そうなのかなあ」


「いやな、麻美って言ったら知らない奴いないぐらい有名でしょ」


「…うん」




実際、有名になったのは死んでからだった。

死ぬ前も有名だったけど、同学年や、暴走族の間で、だ。




引退パレードの後の死が地元に噂を広めるには十分だった。





色々な噂が流れたけど、真実を知ってる奴は誰ひとり麻美のことを語らなかったから。





あの日のことは、誰もが口に出したくないぐらいの衝撃と悲しみを生んだから。




誰もが軽々しく、口に開くことは出来ない禁忌になってしまったから。





あの日から時間が止まったままの、俺も含めて。




だから、噂は脚色されてバラバラと広がったけど訂正はしなかった。


俺が訂正して回るのは、何か違うと思った。





俺が麻美と過ごした期間は本当に短くて。
麻美のことを百パーセント知れたか?と問われたら…ノーとしか答えられないんだ。





麻美に関わる誰もがそれを否定してくれるけど、自信を持てないでいたんだ。
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