花蓮~麻美が遺した世界~【完結】
「哲ちゃんだからこそ、麻美はあんな綺麗な顔をしていたんだ」

「………」


拓は麻美が死んだ後、一度だけぽつりと独り言の様に漏らした事がある。


『麻美の顔、幸せそうだったな』


あまりにも独り言の様に呟くから、何も言えなかった。
それ以降、拓の口からそんな事聞いてないし、俺も言わなかった。


「……俺、言わなかった事最初は後悔したけど…。
言わなくてよかったって思ってるよ」

「何でだよ、もしかしたら麻美さー拓斗と付き合ったかもじゃん」

朱美ちゃんがそうやって、拓に言う。
だけど、拓は静かに首を振った。


「俺はない。
きっと、その理由は朱美のがわかるんじゃね?」

「……まあ」

「何でだって。俺はわかんねえ」

朱美ちゃんが口ごもるから、俺ははっきりと拓に告げた。

だって、俺はわからない。


もしも、俺が麻美と出会わなければ。
麻美はもっと違う運命が待っていたのかもしれない。


もしも、なんて希望も何もない事…。
何度考えたかわかんない。

だけど、俺でなく拓と付き合ってたら麻美はもっと幸せになれたかもしれない。


病気が必然だったとしても。
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