花蓮~麻美が遺した世界~【完結】
「もうすぐ…この街を出るんだって」

「で?」

「…信司、まだ佐緒里ちゃんの事好きなんでしょ?」

「好きじゃねえ」

「嘘。拓から聞いた」


こないだ拓から聞いた話をすると、信司は小さく舌打ちをして愚痴を零す。


「もう関係ねえ」

「二人に何があったの」

「何もねえよ」


信司は体を起して、髪の毛をぐしゃっとする。
顔は俯かせたままで。


「ならさ、最後に会うだけでもいいじゃん」

「必要ねえ」

「どーして」

「うっせえな!」


信司は怒鳴りながら、キッと俺を睨みつける。
この睨みに皆は怖がるのかもしれないけど…幼馴染には通用しない。


「逃げるの」

「はあ?」

「佐緒里ちゃんもきっと信司の事好きだって」

「何勝手な事ほざいてんの」

「わかるんだって」

「関係ねえって言ってんだろ!!」


しつこく食いつく俺にイライラが頂点に達したのか、俺の胸倉を掴むと信司は言い放った。
胸倉を掴まれたまま、無言で見つめ合う俺と信司。


テレビから聞こえてくる、タレント達の笑い声。
それが不自然な程に響く。
< 85 / 231 >

この作品をシェア

pagetop