花蓮~麻美が遺した世界~【完結】
「…哲」
信司はぽつりと、俺の名前を呟く。
それから胸倉を掴んでいた手を離すと、ベッドに座り込んだ。
暫く黙った後、手と手を合わせるとぽつりぽつりと話し出す。
「…喧嘩別れってのは、俺の嫉妬。
俺が佐緒里を好き過ぎたってわけ。
…笑っちまうよな。本当に。
力で佐緒里を押し込めようとしてた」
それは、俺の知らなかった事実だった。
これは拓も知らないのかもしれない。
もしかしたら、誰にも話していなかったのかもしれない。
「“私を信用出来ないなら別れて”そう、言われて。
口論になって、“別れてやる”って言っちまったんだ」
嘲笑しながら、話す信司。
「バカだよ、本当。その後、ずっと後悔してんだ。俺」
信司は「情けねえ」と漏らしながら、両手で顔を覆った。