和田菜月物語
それからいじめっ子は思った以上に俺のパンチが痛かったらしく…。

「お、お前ら…。お、覚えとけよ――!!」
そう言って走って逃げた。

前田は笑っていた。
まるでこうなる事を分かってたみたいに。
よく分からん奴だ…。

俺は初めて人を殴った。
殴った側の気持ちを初めて知った。
殴られる側の気持ちを知っている以上は誰も殴りたくなかった。
けど…。

俺は殴った側は殴られる側に何らかの思いがあるんだと思った。

いじめっ子は前田を殴るだけの玩具としか思ってない。
そんな奴の気持ちは分からない…。

けど…。
俺は意味のある拳もある事を知った。

何だか俺も笑ってしまった。

「ありがとな」

そう前田が笑いながら言った。

「えっ?」

「お前が来てくれるの期待してた」

「前田…」

「俺ってやっぱり弱いな…」

「前田…。そんな事な…」

「いや…。俺は殴られ続けるだけで反抗も何も出来なかった…」

「それは俺も…」

「だから助かった」

「あっ…」

「ありがとう」

俺は少し照れた。
初めてこんなにお礼を言われたから。

だが前田は悪魔みたいな笑顔になって…。

「それじゃ、罰ゲームは高島だな」

「えっ!?」

「だって俺に関わっただろう?」

「あっ!!…」

「じゃあよろしくな!!せな!!」

そして俺達は友達になった。

茶木に出会ったのはそれからすこし後の話だ。
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