和田菜月物語
それから私と小太郎はよく話すようになった。

私はそれが嫌なはずだった。
でも嫌じゃ無かった。

理由は…。

「本当に兄さんに似てるよね」

「そうですか?前田希先生」

「だからその呼び方はやめろ」

「わかりましたよ。前田先生」

「前田じゃないから…」

そして小太郎を見た。

「何か子供の頃の兄さんみたい」

「じゃあ将来は男前になりますね」

「共感しにくいな…」
私は呆れながら言った。

そんな日々が続いた。
4年生の春休みまで…。

ある日小太郎は嬉しそうに言ったんだ。

「実は父さんと山登りに行くんです」

「あの兄さんが?意外だなぁ…」

「今度自慢話します」

「はいはい」

そしてその会話は終わった。

幸せだった日々はたった一本の電話ですべてを変えてしまった。

私と…。
小太郎の人生を…。
< 235 / 261 >

この作品をシェア

pagetop