和田菜月物語
「兄さん…。入るよ…」

私は兄さんを見て涙を流した。

兄さんは包帯で体を覆われていて酸素マスクを着けている。

「に、い…、さん…」

私は兄さんの手を握った。

目覚めて欲しい。
目を開けて欲しい。
話して欲しい。
生きて欲しい。

そう願い私は手を握り締めた。

すると兄さんにその願いが伝わったかのように兄さんの目が開いた。

「兄さん!!」

私が叫ぶと看護師さん達も動き出した。

「今すぐ先生を呼びます!!」

「急ぎましょう!!」

病室の中は2人だけだった。

「兄さん…。良かった…」

私は笑顔で兄さんを見た。
すると兄さんはゆっくりと手を動かしマスクに手を着けた。

「兄さん!?何をするつもりなの!?」

そしてマスクを取り口を開けた。

「さ…、がっ、せ…」

「えっ…?」

「さっ、が…、せっ」

「元気になった時に聞くから!!今は生きて!!」

私は苦しそうな兄さんを見ていられ無くてマスクを着けようとした。
すると兄さんは私の手を止めた。

「兄さん…?」

「こ、れ…、は…、事、故な…、んかじゃ…、ない…」

「どう言う事…?」

私は兄さんの返事を待った。
兄さんは私を見た。

そして笑顔で言った。

「小太…、郎の事…、た、のんだ…、ぞ…。の、希…」

「兄さん!!」

兄さんはゆっくりまぶたを閉じた。
その目からは一滴の雫がこぼれた。

「い、いやぁ…。いやぁぁぁぁ!!」

そして兄さんが生きていると言う事を表していた波が…。

一本の線に変わった…。

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