パパはアイドル♪vol.3~奈桜クンの呟き~


「奈桜……さん、奈桜……さん」


ふわ~っと甘い香りがする。
花?フルーツ?
もし自分が蝶々か何かの虫だとしたら、絶対に蜜を吸いに行く。
そんな甘く誘われる香り。
手を伸ばせばそれが何なのか掴めるような気がする。
目を開ければいい話だが、背中の痛みがひどくて開けられない。
少し体を浮かせて寝返りを打つのも必死の状態。
香りの正体が気になるが、目をつぶって痛みをこらえる事で精一杯だ。


『腹減ってるのかな?』と、奈桜はふと思った。
こんなに痛いのに腹は減るんだ。
新たな発見。


細く、少し冷たい指が奈桜の額にかかった髪をそっと上げた。
そしていとおしそうに髪を撫でる。


「誰?」


何故だろう。
いきなり触られたのに奈桜は驚かなかった。
何かを感じていた?
期待していた?


柔らかいくちびるが奈桜のくちびるにゆっくり重なる。
強くなった甘い香りは奈桜のあらゆる思考を停止させた。


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