パパはアイドル♪vol.3~奈桜クンの呟き~
説明書には尿をかけて一分待つと書いてあった。
梓はトイレを出てドアにもたれかかる。
そしてそのままズズッと滑り落ちるように座り込んだ。
涙が溢れて来る。
何故だか分からない。
声を上げて泣き出したかった。


一分も待つ必要はなかった。
尿をかけるなりすぐに検査薬の小窓に赤い線が現れた。
はっきりと。
それはまだ見えない赤ちゃんの主張。


『ワタシはココにいる』


間違いなく『妊娠』を示す。
『~かも』でも『~な訳ないよね?』でもない。
確実に『妊娠』『存在』
全てははっきりした。


普通なら、本当なら、大喜びしたはず。
そしてすぐにダンナさまに連絡して。
幸せの絶頂の瞬間。
なのに。
梓の目からは涙が止まらない。
その姿はどう見ても歓喜の涙には見えない。
両手で口を覆い、声を殺して泣いている。
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