UNDER SKY
「あぁ、このひと?まーちゃん」
「まぁちゃん?」
二十代後半に見える、まーちゃんと呼ばれるその人は苦笑いしながらしぃちゃんの頭を軽くたたいた。身長が高いしぃちゃんよりさらに身長が高い。
「まーちゃん言うな。俺は前田慎。恵凛ちゃん、紫からよく話は聞いてるよ」
まこと?
この名前はしぃちゃんの話からよくでている。
この人の話をするとき、しぃちゃんは今まで見せたことのない笑い方をするのだ。
本当に笑っている感じ。
私はそんな笑顔をするしぃちゃんを見ていたくてこの人の話を聞いているけれど、私に対してのものじゃないから、気分は複雑。
私にこういうふうに笑ってくれたらいいのに。
「恵凛ちゃん、ここすわっていいよね」
「・・・ぇ、あ!あぁ、うん!」
丸椅子を二脚、ベッドの近くにおく。
いつも、しぃちゃんが丸椅子で、私がベッドに座るのだ。
「今日はウサギのぬいぐるみ持ってきたんだー」
「わぁ!まるっこーい、かわいい!ありがとう!!」
この病室にあるぬいぐるみのほとんどはしぃちゃんからのものだ。
しぃちゃんは私の好きな種類を把握していて、ここはしぃちゃんのおかげで私好みの可愛い部屋に仕上がっている。
「ねぇ、恵凛ちゃん。最近描いた絵、ある?」
「あるよ」
私はごそごそとベッド脇をあさる。
「あった。まだ途中なんだけど・・・」
「わぁ、今回は夕日なんだ」
「うん。てゆーか、しぃちゃんが描いてって言ったんじゃん」
あ、そうだっけ。と笑うしぃちゃんは本当に、可愛い。
「慎さんに見せたいって頼まれたから描いたのにー」
冗談めいて怒ってみせると、しぃちゃんはごめんごめんと笑いながら謝った。
あ・・・、これ。
この屈託のない笑い方は慎さんにあてるものだ。
「え・・・俺?」
本気で戸惑っている慎さんにしぃちゃんが「そうだよー」と甘えた声を出す。
これは手ごわい強敵だなぁ・・・。
私はしぃちゃんが同性愛なのは知っている。
昔っからしぃちゃんのことが好きなのに、しぃちゃんは私を見向きもしてくれない。
私が空を好きになって空を描くようになったのも、しぃちゃんからだった。
同じものを好きになったりしてしぃちゃんに一歩近づいたかもって思っても、届かない。